東京高等裁判所 平成6年(ラ)372号 決定 1994年4月18日
抗告人
有限会社ジョーシン
右代表者代表取締役
坂本常昭
右代理人弁護士
荻原富保
同
恵崎和則
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「抗告の趣旨及び理由」に記載のとおりである。抗告人の抗告の理由とするところは要するに、債権者を世田谷信用金庫、債務者を有限会社ジョーシン(抗告人)とする本件不動産仮差押強制管理事件(横浜地方裁判所川崎支部平成五年(ヲ)第五七五号)において、執行裁判所たる横浜地方裁判所川崎支部(原決定裁判所)により選任された右執行裁判所の補助機関としての管理人(東京都内に事務所を置く弁護士中條高昭、以下「本件管理人」という。)に原決定別紙物件目録記載の対象物件の収益についての強制管理の実施をさせるにつき支給すべき報酬として同裁判所が決定した金額(初回の平成五年一一月は月額八万円、同年一二月以降は月額五万円)が高額に過ぎるとし、この原決定には取り消されるべき違法があるというのである。
二 一件記録によれば、本件管理人による原決定添付の物件目録に記載の各物件(以下「対象物件」という。)についての収益管理は、対象物件の賃借人として賃料給付義務を負う第三者オムロンソフトウエア株式会社(以下「第三者オムロン」という。)からの月額賃料たる収益の取立てと右取り立てた月額賃料総額から振り込み手数料等の費用を差し引いたうえその残額全部を配当に充てるべき金銭として毎月供託をすることがその主たる事務であると察せられる。しかし、収益取立ての対象物件の戸数は区分所有権法に基づく一棟の建物(東京都世田谷区所在)のうちの前記債務者が前記第三者に賃貸している六居室であり、また、その賃料の給付義務を負う第三者は前記第三者オムロン一社だけで、現に同社が六居室分の賃料をまとめて一括振込む方法で月額賃料総額を管理人へ送金していることが認められるが、管理人は選任された当初には、右六居室分の月額賃料の支払が二重払にならないように第三者オムロンとの間で事務的折衝・調整のうえ、第三者オムロンをして管理人の口座へ振り込む方法に切りかえさせたり、現実に振り込み送金された月額総賃料額を毎月把握したうえ、この金額(月額賃料総額は四二万一五〇〇円)より振り込み手数料を控除した残額(四二万〇八八二円)全部を配当に充てる金額として、平成五年一一月以降当該月の前月末毎に供託(千代田区所在の東京法務局(第一回のみ)ないし川崎市所在の横浜地方法務局川崎支部(第二回以降)に供託)をしなければならず、東京都内に事務所をもつ本件管理人が執行裁判所たる原審裁判所の管轄する横浜地方法務局川崎支部に供託するには手間や時間並びに東京からの往復交通費その他諸経費も相応にかかることが、また、右賃料の徴収・供託につき執行裁判所へ逐次報告をすることも管理人の法的義務として当然に予定されていることと察されるのであって、その月額総収益が四二万円強でしかないとしても、右収益額だけから管理人の報酬が算定されるものではないこと(ちなみに、総収益との比率をみても二回目以降から支払われる報酬額は月額総収益の一割強程度にとどまる金額である。)、その他対象物件の個数、管理期間、管理事務遂行に要する時間及び費用の多少や事務の手間、繁雑の度合、右管理行為が弁護士である管理人により確実に遂行されその状況の把握がされ逐次執行裁判所に報告することも要する義務あることなどの点も含めて本件管理についての一切の事情を勘案すれば、本件管理人の報酬を原決定と同額に算定しても、これが著しく高額にすぎるとまではいえない。
三 以上の次第であるから、本件管理人の報酬額について定めた原決定には、取り消さなければならない違法があるということはできない。そうすると、抗告人主張の抗告理由は採用することができないというほかない。
よって抗告費用は抗告人の負担とすることとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官宍戸達德 裁判官伊藤瑩子 裁判官福島節男)
別紙抗告の趣旨
横浜地方裁判所川崎支部が平成六年二月二四日にした管理人の報酬額決定を取り消す。
抗告の理由
1 抗告人は、頭書事件の債務者であり、管理人の報酬額決定に対する正本の送達を平成六年三月三日受けた。
2 同決定によれば、管理人の報酬について、平成五年一一月は金八万円、同年一二月以降は月額金五万円と定められている。
3 ところで、管理人の職務としては不動産の管理、収益の収受、配当手続であるが、本件においては仮差押の執行としての不動産の管理であるから、配当手続はない。
(1) 収益の収受については、月額金四二万一五〇〇円で、給付義務を負う第三者は、わずか一名である上、しかも東証一部上場会社オムロンの系列会社であり、賃料取立について不安もなく(現に滞っていない。)管理人に対し、振込の方法によって支払われている。抗告人がこれら管理人の行為を妨害した事実もない。因みに、給付義務を負う第三者の右振込手数料は、抗告人が負担していて、むしろ積極的に協力しているとも言い得る。このように、収益の収受のために訴訟とかの手段を管理人において執ることは考えられない。
(2) 本件強制管理の対象物件は、前記の通り、全て一括して給付義務を負う第三者が社宅として賃借しており、空き家等がないから、管理人が自らまたは第三者を使用して賃借人を探すとかの必要もなく、収益は全て現金であるから、換価等の必要もない。
(3) さらに、賃貸する上で重要な建物の内部等の清掃・電球等の交換などといった賃貸物件維持管理の上で最も基本的なことは管理人の手を煩わせるでもなく抗告人において費用を負担してなしている。
4 以上述べた様に、本件における管理人の職務は当面言って見れば振込があったか否かの通帳を毎月一回確認する程度のことである。一方、前記のように、管理人が収受する管理料は、月額四二万一五〇〇円程度であるから、これに対し、一割以上の報酬を支払うと言うのはいかにも高額すぎると言うべきである。
5 仮に、抗告人主張のような自体に変化を生じた時はその段階で管理人の報酬を増額すれば足ることでもある。
6 よって申立の趣旨記載の抗告に及ぶ。